屋久島からのメッセージMessage from Yakushima
三井所清典
株式会社アルセッド建築研究所 代表取締役所長
株式会社アルセッド建築研究所 登録建築家。NPO法人木の建築フォラム代表理事として木造建築の技術の普及、特に大断面木造建築への大工・工務店の参加推進と地域のすまいづくり、まちづくり活動の支援に努めている。 地域に根ざす建築的環境の創造を主題に建築設計活動を行っている。
屋久島産ブランド杉板材「ヤクイタ」の起源は、新庁舎建設を「屋久島の地杉を活用した木造庁舎をつくろう」と決めた2013年の町民の意図にある。
一島一町にまとまった屋久島が自然と共に生きる循環型社会の象徴とするために、屋久島の材、屋久島の人々、屋久島の力で新庁舎を建設することにし、その企画、設計、施工の過程を通して、戦後植林された屋久島の地杉の安定供給、高付加価値化を目指す6次産業化を実現することが重要な目標に掲げられた。
改めて、地杉に関するいろいろな調査がはじまった。中でも黒心に関する強度調査、乾燥調査、香り調査、成分分析調査等は、地杉の特徴を活かすための重要な材料調査であった。調査は大学や県の研究機関に委託された。その結果、地杉に多い黒心は、本土の杉に比べて、強度は強くて硬い、香りは強く癒し効果が高い、成分にフェルギノールが多く含まれ白蟻に対する防蟻性が高いことが判明した。
地杉の安定供給のためには、伐採、丸太生産、製材、乾燥、加工、販売等屋久島で実施される活動、それぞれの生業のバランスがとれていることが重要である。従来は丸太の素材生産に比べて製材、乾燥、加工の過程が弱かったので、製材所と工務店が協力して屋久島地杉生産者有限責任事業組合(以下LLP)を設立し、木材加工の拠点となるヤードに乾燥機やモルダー等加工機械が導入された。これにより、庁舎のための構造用木材の粗製材とストック及び天然乾燥を行い、庁舎用板材は床板、内装用羽目板、外壁用板材、野地板等の人工乾燥と加工を行った。因みに庁舎の建設は全体を5工区に別けて工事請負規模を小さくして島内の工務店がそれぞれ請負い、大工や左官等の地元の職人が現場で仕事をした。
庁舎完成と共に地杉ブランド「ヤクイタ」の安定供給のために年間2700坪の生産体制と全国にひろがる工務店ネットワークの構築を掲げ、新庁舎竣工を契機にして屋久島町、LLP,工務店ネットワークによる協定を結び、共同宣言「屋久島の森と生きる」を発した。
屋久島の黒心の多い地杉の特質を活かしたブランド板材「ヤクイタ」は、屋久島で仕事をしている林業、製材、乾燥、加工、建築工事、各種の職人、販売、流通、行政等に関わるすべての人々の力を結集して生まれた良材である。